第28章エース栗原回想記
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  • 執筆者の写真エース栗原

第28章エース栗原回想記

2015年日本デュアスロン選手権


1年前7秒差で逃した日本代表の切符、これは7秒であって7秒じゃないことを僕は実感していた。あれから常に練習の辛い瞬間に『この先があの7秒を縮める時だろ』という言葉を自分に言い聞かせていた。


そして迎える日本デュアスロン選手権。


オレは速い。 オレは強い。 オレだから出来る。 大丈夫。

スタート間近、スタートラインに立つ僕は何度もそう言い聞かせている。 思い返せば僕が日本チャンピオンになった5年前の日本選手権は、「土砂降り・極寒・爆風」の中のレースだった。 あれから5年が経った。 オーバートレーニングで結果も出せず、この競技から逃げ出した時期もあった。 2年前は自分に自信がなく、そこから逃げだし、それを自覚しないためにスタートラインにすら立たなかった。 再びスタートラインに立った去年は、 日本デュアスロン選手権 第7位 カーフマン最終戦 第4位 "上記大会で3位以内"という世界選手権の派遣基準が、7秒という時間でスルリと手のひらから落ちていった。 ーーーーーーーーーーー 負けたら終わりじゃない。 やめたら終わりなんだ。 ーーーーーーーーーーー 支えてくれた言葉がある。 支えてくれる仲間がいる。 冷たい雨が降り注ぐ中、熱い気持ちを持って挑む。

~1stRun10km~(9640m) 世界選手権の出場権のかかった日本選手権はデュアスロンシーズン戦カーフマンとは違い1stRun10kmから始まる。5kmの延長線上で行くと必ず息切れしてしまうためTargetとするタイムは32'00(3'12/km)-32'30(3'15/km)。 走り始めて、先導するのは王者深浦選手。 ペースは体感で3'12くらいで安定しているし、優勝候補ゆえに誰も前に出ない。 そんな中、3km地点から一人が飛び出し、先頭集団はこれを容認。 僕も3'12より速くなるのは厳しいので後方で待機しておく。

距離を踏むうちに先頭集団はどんどん縮小化されていく。

この時点で先頭集団から離れるのは、優勝争いから退いたのと同じ。 そして迎えた8,5km地点! 深浦選手が声を上げる。 「若い衆、積極的に行こうぜー!」

あと1周を間近に迎え、バイクを考えるこの瞬間こそ、僕は勝負だと決意し、体が動いた。

それまでのペースを上げて、3'05/kmに引き上げる。 後ろは見ない。 弱い者が脱落するだけだ。 残り1km地点、4人集団。 (深浦・森・立花選手と僕) 田中・根本・米谷・中村選手の若手が脱落。 『まだだ、もう一発!』 下りを利用してペースを緩めることなく、維持し続ける。 聞こえるのは自分の吐息と声援。 1stRunフィニッシュ直前に深浦選手に抜かれ、2人でトランジッションへ。 ほぼ同時にバイクへ走り出す。


~Bike40km~ 素早くトランジッションを済ませて先頭でバイクに乗車。

乗車後、1kmの上りが続くため、集団は形成されにくい。 現時点で先頭をこぐ僕は、誰かが追いついてきた瞬間に後続を確認しようと思っていた。 ほどなく深浦選手が合流。 後ろを確認すると、後続とはかなりのギャップがある!! この瞬間、深浦選手と言葉は交わしていないが、聞こえていた。 『行こう、2人で』

ペダルに力を込めた。

1周目、後続は森・立花・田中・根本・米谷選手の5名が追走集団を形成し、僕らと40秒差。 2周目、立花選手が脱落し4名の追走集団、50秒差。 メインストレートを通る時に聞こえる。 「エース、行けるぞー!」 「頑張れ、エース!」 通り抜けるその姿で返事をする。

『もちろん、行くさ!』 1周あたり10秒ずつの差を付けながら、レースは進んでいく。 7周目になると後続とは1分40秒差で逃げ切りは濃厚だ。

ここで深浦選手が話しかける。 「まさか、こんな展開になるとは!」 僕は答える。 「僕は深浦さんと戦うために来ましたから!これでいいんです!」


もちろんライバルではあるが、バイクの時はしばし味方となり協力体制をとりながらレースを進行していく。 そしてバイク終了間際。 なぜか深浦さんがローテーションの向きとは違う左側から前に出てくる。 と思いきや、手を差し出してきた。 「クリ、ありがとう。最後(2ndRun)頑張ろう。」 「楽しかったです。よろしくお願いします。」

握手を交わす。この手を離したら僕らは再びライバルになる。 いよいよ、勝負の2ndRunが始まる。 ~2ndRun5km~(4820m) 得意のバイク-ランのトランジッションを済ませて、先頭でスタート!!

行ける! 行ける! 何度も言い聞かせる。

深浦選手に500m地点で追いつかれる。 食らいつこうと再度ペースを上げるも、ジリジリと差を付けられてしまい、遠のいていく背中。。。それでも最後まで、あの7秒を克服するために全力でフィニッシュラインを目指す。

そして、準優勝でフィニッシュ!

最後のフィニッシュカーペット上で、去年のフィニッシュシーンを思い出していた。 あの時、目の前で、7秒差ですり抜けていった世界選手権への切符。失意に満ちたフィニッシュだったこと。そこで感じた感謝。 そして戻ってこれた。 ゴール後、共にレースを進めた深浦選手やU-23時代に一緒に遠征した平松さんが声をかけてくれた。そして、僕にこう言った。

「クリ、おかえり!(^^)」

その言葉に思わず涙があふれた。

今回は悔し涙じゃない。感謝の涙だ。

2010年学生時代、勢いで上りつめた日本チャンピオン。そこから1度夢を諦め社会人を経て、プロとなり再度ここを上っている。まっすぐじゃなかったけれど、その道を本当にたくさんの人が一緒に進んでくれている。 ありがとう。 そして、両親は相変わらず雨の日本選手権で寒い中を1番近くで応援してくれた。 ありがとう。


日本選手権準優勝により翌年の世界選手権の基準の一つはクリア。


翌年3月の認定記録会では5年半ぶりとなる自己ベストを更新して15分16秒。

二つ目の基準(5000m15分22秒)もクリアしてついに日本代表に選出される。

ついに手に入れた5年ぶりの世界選手権の切符。

開催場所はスペイン/アビレス。

日本を背負って、胸を張って戦ってこよう。そう強く誓った。

次回、2016年世界デュアスロン選手権。

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